小学校に入学し、本格的な勉強が始まると、「うちの子、漢字がどうしても覚えられない」「計算だけ極端に苦手みたい」といったお悩みを耳にすることが増えます。知的な遅れはないのに、ある特定の学習だけが困難な状態を「学習障害(LD)」と呼びます。

学習障害(LD)ってどんなもの?
学習障害は、脳の情報の処理の仕方に「独特なスタイル」があるために起こります。主に以下の3つのタイプがありますが、複数が組み合わさっていることもあります。
● 「読む」ことが苦手(ディスレクシア) 文字がにじんで見えたり、踊っているように見えたりすることがあります。一文字ずつ追うのが精一杯で、文章の内容まで頭に入りにくいのが特徴です。
● 「書く」ことが苦手(ディスグラフィア) 鏡文字になったり、漢字の細かい部分(トメ・ハネなど)がどうしても覚えられなかったりします。手先の不器用さが関係していることもあります。
● 「計算」が苦手(ディスカリキュリア) 数字の概念や、九九、筆算のルールなどを理解するのが難しく、簡単な計算にも時間がかかってしまうことがあります。
1. 学校で抱える問題
学習障害は大きく3つのタイプに分類されます。それぞれの特徴と、学校で直面する具体的な困難を挙げます。
① 読字障害(ディスレクシア)
● 問題: 教科書の音読がたどたどしい、文字を読み飛ばす、行を飛ばす、似た文字(「わ」と「ね」、「め」と「ぬ」など)の区別が難しい。
● 影響: 内容の理解が追いつかず、授業についていけなくなる。音読を当てられることが強いストレスになる。
② 書字表出障害(ディスグラフィア)
● 問題: 漢字が覚えられない、鏡文字を書く、板書が間に合わない、作文で助詞(は・を・へ)を正しく使えない。
● 影響: ノートを取ることに必死で先生の話が聞けない。テストで答えはわかっているのに、文字が書けずに点数が取れない。
③ 算数障害(ディスカリキュリア)
● 問題: 数字の概念(大小関係)が掴めない、繰り上がり・繰り下がりが理解できない、九九が覚えられない、図形やグラフの理解が困難。
● 影響: 算数・数学への苦手意識が強まり、論理的な思考を要する他教科にも影響が出る。
2. 学校での配慮と対応策
読むことへの配慮
● 音声読み上げ: デジタル教科書や読み上げソフト(iPadのアクセシビリティ機能など)を活用する。
● 視覚的工夫: 行を読み飛ばさないよう、読む場所以外を隠す「タイポスコープ」や、カラー定規を使用する。
● 音読の免除: 一人での音読を控え、先生との交代読みや録音での提出を認める。
書くことへの配慮
● ICT機器の活用: タブレットでの入力、板書の写真撮影、ボイスレコーダーの使用を許可する。
● 負担の軽減: 穴埋め式のプリントを用意する、連絡帳の記入を先生が代筆する、あるいはコピーを渡す。
● 評価の修正: 漢字の細かい「はね・はらい」にこだわらず、文字として認識できれば正解とする。
計算・思考への配慮
● 補助具の使用: 九九表、計算機、数図ブロックなどの持ち込みを許可する。
● 視覚化: 文章題を絵や図に置き換えて説明する。
テストでの配慮
● 時間延長: 読み書きに時間がかかるため、試験時間を1.2〜1.5倍に延長する。
● 別室受験: 集中できる環境で、必要に応じて問題文の読み上げを行う。
3. 周囲のサポートと心理的ケア
学習障害を持つお子さんにとって、最も辛いのは「みんなができることが、なぜ自分だけできないのか」という自己否定感です。
● 「努力不足」ではないことの理解: 脳の情報の処理の仕方が異なるだけであり、本人のやる気の問題ではないことを、保護者と教師が共通認識として持つことが重要です。
● 強みに目を向ける: 読み書きは苦手でも、口頭での発表が得意だったり、創造的なアイディアを持っていたりすることが多くあります。得意な部分を評価し、自信を守ることが二次障害(不登校や抑鬱など)の予防になります。
● 個別の指導計画: 通級指導教室や特別支援教室を利用し、その子に合った学習スタイル(五感を使った学習法など)を専門家と一緒に模索してください。
4.言語聴覚士(ST)のリハビリでは何をするの?
言語聴覚士は、言葉の専門家として、読み書きの土台となる「音を聞き分ける力」や「言葉の意味を理解する力」をサポートします。
1. 音韻認識トレーニング(「音」を捉える練習)
文字を読む前に、言葉が「どんな音の集まりか」を理解する訓練です。ディスレクシア(読字障害)のお子さんに特に有効です。
● 音の分解と抽出: 「『りんご』の最初の音は何?」と聞き、「り」と答えさせる練習や、「『さくら』から『さ』を抜くと?」といった音の抜き出し練習を行います。
● しりとり: ルールのある言葉遊びを通じて、語尾と語頭の音を意識させます。
● 拍(リズム)の意識: 「お・べ・ん・と・う」と手を叩きながら、音の数を数える練習です。特殊音(「っ」「ょ」など)の理解を助けます
2. 視覚的トレーニング(「形」を捉える練習)
文字の形を正確に認識し、手との連動をスムーズにする訓練です。
● 多感覚法(VAKT法): 「見て(Visual)」「聞いて(Auditory)」「体で動かして(Kinesthetic)」「触れて(Tactile)」覚える手法です。
● 図地反転やパズルトレーニング: 複雑な背景から特定の図形を見つけ出したり、バラバラのパーツを組み合わせて漢字を構成したりする練習です。
3. 語彙・文法トレーニング(「意味」をつなぐ練習)
● カテゴリー分け: 「動物」「食べ物」などのカードを仲間分けし、言葉のネットワークを脳内に整理します。
● 絵カード説明: 1枚の絵を見て、「だれが・何を・した」という文章を作る練習です。
● マインドマップの活用: 一つのキーワードから連想する言葉を広げ、視覚的に整理します。これは作文の構成を練る際にも役立ちます。
4. 読みの流暢性を高める練習
一文字ずつ拾い読み(逐次読み)をする段階から、単語としてまとまりで読めるようにします。
● 語のまとまり提示: 単語の周りを枠で囲ったり、文節ごとにスラッシュ( / )を入れたりして、視覚的に「固まり」として捉えやすくします。
● シャドーイング(追い読み): 大人が読むのを少し遅れて追いかけて読むことで、適切なリズムとイントネーションを身につけます。

最後に:お子さんの「やる気」の火を消さないために
学習障害のあるお子さんは、学校で毎日、人一倍の努力と苦労を重ねています。「勉強が嫌い」なのではなく、「今のやり方では苦しい」だけなのです。
私たち言語聴覚士は、お子さんが「これならわかる!」「自分にもできる!」と思える瞬間を一つでも多く作れるよう、全力でサポートします。
「うちの子の困りごとは、学習障害なのかな?」と迷われたら、まずは気軽にご相談ください。お子さんにぴったりの「学びの眼鏡」を、一緒に探していきましょう。